総合商社に学びながら中南米市場における商社金融としての役割を高めた時期

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前回の記事で、商社として安定的なビジネスを確立していくために総合商社の歴史に学びながら商社機能を何年もの時間をかけて作り上げてきたという話をしましたがその中でも取引与信機能のビジネスを2010年代から拡大させていきました。2010年代の10年間はこの取引与信機能における商社金融のレベルを会社全体で徹底的に高めてきた10年でした。

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ドミニカ共和国は中南米全倍の市場の中でも圧倒的に支払い回収が難しい市場と言われています。この市場の中で100社を超えるドミニカ共和国の会社に商社金融としてのファイナンスのビジネスを展開するにあたり、当初は支払いが未回収のビジネスがいくつかありましたがそのようなビジネスが増えるとたちまち会社に影響が起きるため未回収が起きるメカニズムを考え、顧客管理においても客を5段階評価に分け、その評価クラスごとに取引条件を変えるということや様々なデータベースを取り入れる、またドミニカ共和国の市場において法的な裁判や差し押さえの経験を積み上げてきたことで商社金融の独自のノウハウを作り続けた結果、ここ10年間の売り上げ未回収がゼロという実績を続けることができています。

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上記のノウハウに加えて最も難しいことでかつ、最も重要なことが2つあります。まず一つ目としてはそれぞれの客が「今、現在どういう状況にあるのか」というのをできるだけ正確に把握するという作業があります。これは現地に根付いている商社だからこそできることでもありますが、自分の経験上、仮に現地に駐在を置いている商社でもこの「正確に」把握するという作業はとても難易度が高いのです。なぜなら客は都合が悪いことは隠しますし、客の言葉をそのまま聞いていると何が本当か嘘かは全く見抜くことができません。また仮にその客が高級車にのっていたり会社や自宅の門構えが立派なども全く参考にならないどころか、支払いの履行という点ではマイナスになることの方が多いというのもこの市場の独特な特徴と言えるでしょうか。「生き馬の目を抜く」ような連中が非常に多い中で、ほんの少しの言動や態度の変化に対しても厳しく目を光らせておき正確に相手の現状を見抜く、ことが何よりも重要になるのです。

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もう一つの重要なことは市場全体の変化に厳しく目を光らせておくことです。市場は生き物であり常に変化しておりますので市場全体の環境が変化するとたちまち多くの客が影響を受けますのでそこにも気を配ることが重要になります。一例をあげてみましょう。実はコロナ禍の3年というのは我々の商売環境そのものは非常に好調でした。理由は世界中で金融緩和が一斉に行われたことでドミニカ共和国の民間銀行でも通常では考えられないような低金利で資金の貸し出し斡旋が強力に行われたことでどの中小企業も資金がだぶついていたのです。それらのダブついた資金は当然何らかの商売に向かいました。コロナにおいては当初は大きな打撃を予想していましたが資金が市中に投入されるニュースが駆け巡った時点で注意深く、ドミニカ共和国の中央銀行のバランスシートを観察していましたがみるみるうちに債務残高が増えましたが、一方で流動性のある資金が増えましたので関係者にいち早く情報を行き渡らせて全員で競合会社より遥かに早く戦略的に動いたわけです。また逆に去年からは米国の利上げのアナウンスがされたのをきっかけにそれらの資金の引き上げが開始されていきましたので今度はこちらのビジネスも買い付けた商品のお金が払えない客が今までより増える可能性が高いので客の評価リストを1段階厳しいものに上げていくという作業が必要になるわけです。このように市場全体が今どの段階に向かうかということを考えることも経営判断ではとても重要なのです。

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このように商社としての与信取引を自社の得意ビジネスの1つとしていくことに成功すると、他社がなかなか真似できない分、参入障壁の高い強固なビジネスが生まれそこから派生した取引で横展開にもつながるわけです。参考までに自分が会社員として元お世話になっていた日系の商社も商社金融を中核の一つとしていましたがその会社でも1年に必ず複数回は未回収の客がいましたのでそれを考えるとドミニカ共和国という市場で10年以上未回収ゼロを続けることができている独自のノウハウがいかに特別か理解してもらえると思います。